磁気力を用いた浮力対流および二相流の制御

概要

近年,超伝導電磁石が商品化され,数テスラから15テスラ程度の強磁場が比較的容易に利用できる状況にあります. 電磁流体力学の分野では,以前は導電性流体あるいは磁性流体のみが研究対象であったのに対し,最近では空気や水のような流体まで研究範囲が広がっており, それはこれまで無視されてきた磁気体積力(単に磁気力,あるいは磁化力とも呼ばれる)に起因するものです. これまでの普通の電磁石が発生する磁束密度を0.1から1テスラ程度としますと,超伝導電磁石のそれは10から100倍のオーダーであり, 二乗に比例する磁気エネルギーに換算すると千倍程度になります.これは鉄などの強磁性材料に比べて,磁化率が非常に小さいとされる空気や水においてさえ, 強磁場下においては磁気体積力が重力に匹敵するほどに顕在化することを意味します.この磁気力は,分子レベルで作用し,磁化率と磁場の2乗の勾配に比例します.

図1 本研究室にある超伝導電磁石(10 T, 164 A)

上記の理由により,水や空気のような非導電性の流体でも,流体が持つ磁性のために磁場効果が現れます. 水は反磁性体で磁場から反発力を受け,一方,空気は常磁性体で磁場に引き付けられます. このような磁気体積力は,磁場が非一様つまり勾配を持っていることが必要条件です. しかしながら,たとえ勾配磁場においても,均一な流体系(単相で等温かつ等濃度場)では,この磁気体積力は保存力になり,圧力分布に変化を及ぼすだけで, 流体には動きは見られません.したがって,水や空気のような非導電性流体の流れが発生するには,二相系であるか温度場や濃度場が必要となります. このことは、磁気力が二相流や浮力対流と密接に関連していることを意味します. したがって,水や空気の重力場における自然対流や二相流というのは、勾配磁場の印加によって制御できることになります.
磁気力印加により、非導電性流体の自然対流熱伝達は,勾配磁場を発生させる電磁コイルの形状や電流強度に応じて様々に変化させることができます. 換言すれば,重力場はたった一つの形態しか持ちませんが,磁場形態は無限に作り出すことが可能であり,対流モードや熱伝達率に様々な変化を与えることができます. 重力場における自然対流は,通常Boussinesq近似が用いられます.それにならって磁気対流の場合にも,同様なBoussinesq近似を用いれば,解析が容易になります.


文献例:環状液体層内の磁気ベナール・マランゴニ対流,日本機械学会論文集(B 編),78 巻 787 号 (2012-3)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kikaib/78/787/78_787_618/_pdf