移動物体と流れ場の相互作用問題
概要
本研究室では移動物体と流れ場の相互作用問題を解くにあたり、構造格子を用いて解くことを主に研究しています。移動物体を扱う場合、非構造格子を用いた流れ解析では格子の再生成手順に時間を費やすことになり、高速に計算することができません。そこで近年注目されているのがIB法で、固定された格子系へ物体を表現する技法です。物体が存在する計算要素へ外力を与えることで流体の流れを変えてあたかも物体がそこに埋め込まれているかのように計算できます。
以下に示すのはIB法による移動物体のシミュレーション例です。
動画 1 簡単なプロペラ回り流れ
Level Set関数
境界からの距離を記録している関数です。この関数が0の場所には壁があります。
- メリット
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どんな物体も統一的に表現することができます。たとえ対象が液体のような分裂合体を繰り返すものであっても相応の対策を施せば計算が破たんすることはなく、またメモリ使用量も一定で済みます。さらによくも悪くも物体形状を多少ぼかして表現することになるので、境界付近で滑らかになります。数学的な表現でもありますので、コーディングが楽です。
そして、最大のメリットは非構造格子に用いれることです。
- デメリット
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用いる移動スキームによっては物体の形状が変わってしまうこと、再初期化処理が重いことなどです。
ラスタライザ
ラスタライザとは3Dグラフィックスの分野で用いられているベクター情報を格子系であるラスター情報へ変換するものです。早い話が物体がある場所を色塗りしてくれます。
- メリット
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全領域にわたって計算処理をする必要がなく低負荷であり、物体の形状をベクター情報として保持するので物体が移動した場合でも形状が崩れることがなく、完全な精度を有します。構造解析で頻繁に用いられる有限要素法と相性が良いです。
- デメリット
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複雑な変形をする物体、分裂を伴うものに適応することが困難である点が挙げられます。また、コーディングが困難です。
このように、それぞれ長所短所がありますが、静止物体をIB法で解析する場合、どちらを用いても大差はありません。物体が移動する場合に特徴が現れます。
究極な話がLevel Set関数を完全な精度で移動させられれば良いのですが、そうもならず、計算負荷も大きいです。また、ラスタライザと3角形ポリゴンによる表現は非常に高速動作をしますが、ほぼ剛体にしか適応することができません。状況に応じて使い分けます。あるいは複合させるのがよいでしょう。
なお、構造格子を用いた解析は、データ配列がメモリ上に連続配置されているため、ベクトル演算器などのアクセラレータを用いた場合に大きな高速性を有します。
このような理由からIB法は今後のCFD手法としてその重要性を増していくでしょう。